井上尚弥vsネリ戦はなぜ名勝負だったのか|ピカソ戦後に読む“東京ドームの答え合わせ”

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2025年12月27日、サウジアラビア・リヤドで井上尚弥 vs アラン・ピカソ が行われました。
結果は3-0の判定で井上尚弥の勝利。120-108のフルマークを含む、誰が見ても文句のつけようがないスコアでした。

それでも、試合を見終えたあとに残ったのは、「圧倒的だった」という満足感よりも、どこか物足りなさを覚える、不思議な後味だったのではないでしょうか。

ピカソは終始、“負けないこと”を最優先にした戦い方を選びました。深く踏み込まず、無理に交換せず、リスクを極力排除する。結果として井上尚弥は試合を完全に支配しましたが、そこに張りつめた緊張や、勝負の行方が揺れる瞬間は、最後まで訪れませんでした。

その静けさとは対照的に、多くのファンの記憶に今なお強く残っている試合があります。1年半前、東京ドームで行われた井上尚弥 vs ルイス・ネリ です。

あの試合には、今回のピカソ戦では感じられなかった“温度”がありました。

  • 初回に訪れた、会場を凍りつかせる衝撃のダウン
  • そこから一切崩れない、異常とも言える危機管理能力
  • 東京ドームという特別な舞台への即応力
  • 逆境の中で主導権を奪い返す冷静な組み立て
  • 危険なサウスポーに対する、完成度の高い対応力

2024年5月6日。スーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥は、元世界2階級制覇王者でWBC世界同級1位のルイス・ネリを、6回1分22秒TKOで下しました。

34年ぶりに東京ドームで行われたボクシングのメインイベントは、結果だけでなく、そこに至るまでの緊張感とドラマ性において、強烈な印象を残す一戦となりました。

この記事では、井上尚弥 vs ルイス・ネリ戦の流れ、背景、会場の空気、専門家の反応をあらためて整理しながら、ピカソ戦を経た今だからこそ、より鮮明に浮かび上がるこの試合の価値を掘り下げていきます。

なぜ東京ドームは「番狂わせの会場」と呼ばれるのか

最初に書いた通り、今回の東京ドームでのボクシング興行は、34年ぶりでした。

前回の東京ドームでのメインイベントは、無敗の統一世界ヘビー級チャンピオンだったマイク・タイソンとジェームス・バスター・ダグラスの一戦。

世紀の大番狂わせと言われ、その会場として、世界中に東京ドームが記憶された一戦でした。

実は、この試合前、タイソンは調子悪かったんですよね。

当時、タイソンは無敗で統一チャンピオンになっていました。

そして、東京ドームでの試合は、日本で初めての試合でした。

だからかどうかわかりませんが、コンディションが良いとはとても思えない感じでした。

というより、どこか説明のつかない違和感が、試合前から漂っていました。

スパーリングで打ち込まれて、ダウンを取られたという話もありました。

公園で鳩を捕まえて喜んだりしていました。

なんか、闘志にかけているという感じがしていましたね。

 

で、かませ犬と思われていた、ジェームス・バスター・ダグラスに10回KO負けしてしまったわけです。

このことから、東京ドームには、ボクシングのアップセットの魔物がいるんじゃないのか?と言われていたわけです。

今回の会場の東京ドームには、こんな話があったので、ネリは「今回も番狂わせが起きる」とか言っていたわけです。

ルイス・ネリが“日本の悪童”と呼ばれた理由

井上尚弥にTKO負けしたルイス・ネリは、日本との因縁があるボクサーでした。

その因縁は、今回の井上尚弥との対戦が決まってから、いつも言われていたことで周知のことですが、山中慎介選手との2回のタイトルマッチにまつわるものです。

2回ともルイス・ネリが勝ったのですが、1回目はドーピング、2回目は体重超過という”おきて破り”を繰り返しました。

このことで、完全にネリは日本のボクシングファンからすれば、「憎っくき存在」となったわけです。

ネリは、”神の左”と呼ばれる左ストレートが強烈な山中慎介選手をぶっ飛ばしてしまっていました。

これは、体重が重かったからなのか、パンチが強かったからなのか?

「体重が重い人が軽い人と戦うとこうなるよね。ずるいよね。」と思った記憶があります。

勝った後に、喜んでいたのも、気に入りませんでした。

あくまで体重超過というルール違反をしたのですから、申し訳なさそうにするべきだと思いました。

これは、最近WBC・S・ライト級王者デビン・ヘイニーに勝ったライアン・ガルシアにも同じ思いがしました。

ガルシアの場合は、体重超過+ドーピングのコンボですからね。

もう、ルール無用なので、さらにひどい。

最近、体重超過なんかが常態化していますけど、マジで危ないですからね。

ちゃんとルールを守ったうえで戦ってほしいです。

公開計量でわかったネリのコンディション

そんなことだったので、ネリがちゃんと体重を守るのかが注目されていました。

結果としては、何週間も前から事前計量を何度もする約束だったので、ネリはちゃんと体重を落としてきました。

でも、意外だったのが、リミット体重よりも500gもアンダーだったこと。

落としすぎじゃない?って思ってしまいました。

逆に調整失敗していて、当日動けないとか、体が薄くてボディが弱いんじゃないか?と。

計量の後のフェイスオフで、ネリ陣営の振る舞いが、挑発的に映ったのも事実でした。

まぁ、ちゃんと体重を落としてくるのは当然なんですが。

今回は特に体重超過常習犯の悪童ネリということで、前日計量もいつも以上に注目されました。

試合のハイライト|初回ダウン〜6RKOまでの全流れ

心配されていた計量も無事終わり、井上尚弥 VS ルイス・ネリの試合は、正式に成立することとなりました。

試合展開は、もうご存じのとおり。

第1ラウンドにいきなり井上尚弥選手が、自身初めてのダウンを喫して、東京ドームが騒然とします。

「やっぱり、東京ドームは大番狂わせの地なのか?」と思った人も多かったでしょう。

でも、ここで井上尚弥選手がただの選手でないと思ったのは、全然あわててなかったこと。

さすがにびっくりしたでしょうし、ダメージも全くなかったわけではないでしょうが、対応が良かった。

すぐに立ち上がって再開して、打ち込まれるというのはよく見られるパターンですが、井上尚弥選手は8カウントまでゆっくり待った。

そして、再開された後も、直後はクリンチに徹して、たぶん自分の体の反応を見ていた。

そして、大丈夫かな?と思った後は、振り回してくるネリにアッパーなどのカウンターを合わせていました。

カウンターを2発もらったネリは、ちょっと一気にはムリと判断して少し攻勢を緩めたところで第1ラウンド終了。

自身初めてのダウンだったのに、ほぼベストの対応をしたところがモンスターのすごいところだと思いました。

続く、第2ラウンドが始まるところでは、既に井上尚弥選手は落ち着ていて、コーナーから出る前に「ホゥー!!」っと大きな声を出していました。

そして、落ち着いた第2ラウンドの途中で、井上尚弥選手はネリから、左フックでお返しのダウンを奪いました。

パンチ的にはそんなに効いたものではなく、ネリが右を大きく振ったのをかわした井上選手が、左フックをひっかけて、足がそろっていたネリが倒れた感じ。

でも、これで、点数的にもお互い1回ずつのダウンでイーブンに戻し、井上尚弥選手は精神的にも楽になったと思います。

あとは、3ラウンド以降、井上選手のペースになって、ドームの雰囲気をだんだん楽しんでいる感じが出てました。

ネリのパンチをかわした後、顔をノーガードで突き出して、「打って来いよ!」と言わんばかりのポーズもやってましたね。

5ラウンドには、強引に出てきたネリに的確にフックをあてて、2回目のダウン。

このダウンは、1回目のダウンより効いていましたね。

ネリは、5ラウンドは何とかKOを逃れたものの、6ラウンドにしっかり決められました。

最後は、右のアッパーからストレートの2発。

めちゃめちゃ速くてコンパクトだったのにもかかわらず、最後のストレートで首がずれてましたね。

ネリはマウスピースも吐き出して、誰が見ても立てそうになく、レフェリーのグリフィンさんがストップしました。

これで、勝負あり。最初はヒヤヒヤしたものの、井上尚弥選手が、結局は圧勝でした。

専門家が語った「モンスターの凄み」

井上尚弥 vs ルイス・ネリ戦のあと、国内外の専門家・OB・現役選手からは共通して “モンスターの異次元性” を示すコメントが相次ぎました。
とくに評価が集中したのは、次の3点です。


①「初回ダウンへの対応」が桁違いだった

元世界3階級王者・長谷川穂積さんは、Amazon Prime生配信中にこう語っています。

「事前にシミュレーションしていたにしても、あの舞台で落ち着きを保てるのは異常。
ふつうの選手なら前のめりになる場面で、彼は8カウントまできっちり呼吸を整えた。」

実際、井上選手は倒れた直後に焦らず、
**「立つ→呼吸→状況確認」**という理想的な手順を踏んでいました。
ダメージはあったはずですが、再開直後は無理に打ち合わず、クリンチで調整。
“経験値の高さ”と“冷静さ”がよく出た場面です。

②「修正力の速さ」が世界トップの証明だった

第2ラウンド開始時点で、井上選手はすでに表情が戻り、
コーナーで「ホーッ!」と声を出して気持ちを切り替えていました。

専門家が特に驚いたのはここ。

「1ラウンドで起きた問題を、2ラウンド開始までに全部修正してきた」
「ネリの癖を即座に掴み、アジャストしていった」(国内プロモーター)

そして第2ラウンドでは、見事な左フックで“お返しのダウン”。
あれは力任せではなく、ネリの大振りに合わせた“教科書通りのカウンター”でした。


③「決めるべき時のギアチェンジ」が反則級

5ラウンドの2度目のダウン、
6ラウンドのフィニッシュ――どちらも、
**「短く・速く・無駄がない」**パンチで、専門家の間でも話題に。

ある解説者はこう述べています。

「あのフィニッシュのストレートは、フォームが小さいのに破壊力が大きい。
井上尚弥にしか打てない“最短距離のKOパンチ”。」

パンチを読んで、かわして、最短距離で反撃する。
ボクシングの教科書の“完成形”のような動きでした。

まとめ:この試合が示した“モンスターの本質”

・どんな逆境でも崩れないメンタル
・一瞬で修正できる戦術IQ
・決めるべき場面で必ず決める勝負勘

専門家の反応は、ほぼすべてが「強い井上尚弥」ではなく、「完成された井上尚弥」という評価に集約されています。

ピカソ戦と比べて分かる、ネリ戦が“名勝負”だった理由

2025年12月27日の井上尚弥 vs アラン・ピカソ を見終えた今、1年半前のネリ戦は、より鮮明な輪郭を持って立ち上がってきます。

両者の試合内容は、対照的でした。

ピカソ戦は、距離の管理と被弾回避を最優先にした構成で、勝敗は明確だった一方、攻撃の交換が起こりにくく、緊張の振幅は小さかった。

一方のネリ戦は、互いが踏み込み、互いがリスクを引き受ける展開。その結果として、主導権が行き来し、会場の空気が何度も張りつめました。

この違いが示しているのは、単なる試合展開の差ではありません。
井上尚弥の強さが、「支配すること」だけでなく、「相手を戦わせた上で、なお勝ち切ること」にあるという事実です。

ネリ戦が証明した、井上尚弥の“完成度”

ピカソ戦後にあらためて振り返ると、ネリ戦は井上尚弥というボクサーの完成度を、最も端的に示した一戦だったことが分かります。


① 初回ダウンは、弱点ではなく“処理能力”の証明だった

ネリ戦最大の衝撃は、初回に喫したキャリア初のダウンでした。しかし、そこから井上尚弥は一切崩れませんでした。

立ち上がり、呼吸を整え、状況を確認し、無理に打ち返さない。危機を危機のまま放置せず、その場で処理していく。

この一連の対応は、ダウン経験が“成長の加速装置”として機能していることを、はっきりと示しています。


②大振りに対するカウンターは、すでに完成形だった

ネリは、踏み込みと強打を武器にするサウスポーでした。その大振りに対し、井上尚弥が合わせたのは、力ではなく、タイミングと最短距離のカウンターです。

第2ラウンドで見せた左フックは、その象徴でした。相手が振り切った瞬間に、より短い軌道で差し込む。

このパターンは、ピカソ戦でも繰り返し見られたものであり、偶然ではなく、完全に身体化された必勝形と言えます。


③ スタミナとギアチェンジが、勝負を決定づけた

ネリ戦では、初回のダウンというアクシデントがありながらも、井上尚弥は後半に向けて、むしろ出力を上げていきました。

5ラウンドのダウン、6ラウンドのフィニッシュ。そこには、焦りではなく、余力を見極めたうえでのギアチェンジがありました。

この“後半に強い”という特性は、ピカソ戦で判定まで支配し切れた理由とも、はっきり重なります。


④ 東京ドームという舞台が、完成度を引き上げた

ネリ戦は、

  • 東京ドームという特別な舞台
  • 初回ダウンという逆境
  • 危険な強打者との対戦

という、三重の難条件が重なった試合でした。

そのすべてを処理した経験が、井上尚弥に「どんな状況でも崩れない基準値」を与えた。

ピカソ戦の静かな支配は、この東京ドームでの激闘があってこそ成立したものだった――
そう考えると、ネリ戦は単なる過去の名勝負ではなく、現在の井上尚弥を形作った決定的な一戦だったと言えるでしょう。

まとめ|ネリ戦が、今も語られる理由

ピカソ戦を見終えた今だからこそ、1年半前のネリ戦は、よりはっきりとした意味を持って立ち上がってきます。ピカソ戦は、井上尚弥の完成度の高さを証明した試合でした。

距離を支配し、主導権を渡さず、12ラウンドを通して勝ち切る。世界王者として、最も安全で、最も合理的な勝ち方だったと思います。

一方で、ネリ戦は違いました。初回のダウンという予期せぬ逆境。東京ドームという特別な舞台。
そして、勝負を取りに来る危険なサウスポー。

そのすべてを真正面から受け止めたうえで、井上尚弥 は、冷静に組み立て直し、最終的には相手を飲み込み、仕留め切りました。

この2試合の対比が示しているのは、井上尚弥の強さが「圧倒する力」だけではない、ということです。

  • 危機を処理できる冷静さ
  • 試合中に修正できる戦術眼
  • リスクを引き受けたうえで勝ち切る覚悟

それらが揃って初めて、ネリ戦のような“心を震わせる試合”が生まれるのだと思います。

静かに支配したピカソ戦。灼熱の緊張が続いたネリ戦。

どちらが優れているかではありません。ただ、なぜネリ戦が今も語られ続けているのか――
その答えは、すでに多くのファンの記憶の中にあるはずです。

こうぷー

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